研究内容

慢性化した炎症(慢性炎症)はアレルギーや自己免疫疾患といった免疫疾患のみならず,神経変性疾患,循環器疾患,生活習慣病,さらにはがんや老化まで,幅広い疾患病態の形成に関わるため,炎症制御が病態改善につながる例は数多く知られています.しかしながら治療オプションは限られており,依然として大きなアンメットニーズが存在します.慢性炎症で中心的役割を果たす免疫細胞,特にマクロファージや好中球といった自然免疫細胞は,炎症を媒介すると同時に組織修復も媒介しています.こうした機能変容(可塑性)がどのように制御されているかは大きな謎です.

自然免疫細胞は病原体や自己の死細胞など様々な起炎剤を感知し,そのシグナルはエンドリソソームにおいてエネルギー代謝と統合的に制御されて細胞応答に変換されます.エンドリソソームは炎症の場における複雑かつ多彩なシグナルを中継・統合するハブとして機能しており,自然免疫細胞のエンドリソソームの酸性化や輸送制御をかく乱すると,複数の疾患病態の改善と組織修復がもたらされます.このことは,エンドリソソームが機能的可塑性に重要であることを意味しています.私たちは自然免疫細胞の機能的可塑性の鍵を握るエンドリソソームシステムに焦点を当て,自然免疫細胞の組織修復能獲得とその破綻のメカニズムを明らかにすることで新たな疾患治療標的を同定し,アカデミア創薬へとつなげています.

そのために私たちが着目しているのは、免疫細胞のエンドリソソームに局在する多機能アミノ酸輸送体です.免疫細胞のエンドリソソーム膜に高発現する多機能アミノ酸輸送体SLC15A4 (Solute Carrier Family 15 member 4)とSLC15A3は、エンドリソソーム内腔から細胞質側へプロトンの濃度勾配を利用して基質であるアミノ酸やオリゴペプチドを輸送しています.これらの分子は、輸送体として機能するのみならず、エンドリソソーム膜上で様々な機能分子と会合して、炎症シグナルと栄養・代謝シグナルの制御に関わっています.そのためこれらの分子の機能を阻害すると、自然免疫細胞の一部において炎症性の性質が喪失し、組織修復性の機能が獲得されること、それによって自己免疫疾患をはじめとして複数の難治性炎症性疾患のモデル動物の病態が著しく改善されることを私たちは明らかにしてきました。ヒトとモデル動物の違いも念頭におきながら、基礎研究の知見をもとに新たな治療戦略の作出を目指し、以下の4つの課題を柱として、多機能アミノ酸輸送体による病態制御機構を中心に研究を進めています.私たちの研究に興味をお持ちくださる学生さん、研究者の方々、企業の方々はご連絡ください.

  1. 多機能アミノ酸輸送体が担う炎症シグナルと代謝シグナルの統合的制御メカニズム
  2. エンドリソソームに依存する疾患と老化の制御メカニズム
  3. 呼吸器感染症の増悪メカニズムと制御戦略
  4. 難治性炎症性疾患を対象としたアカデミア創薬

東京大学大学院 理学系研究科 生物化学専攻

分子炎症免疫学研究室 反町研究室

〒113-0032 東京都文京区弥生2-11-16

Sorimachi Laboratory

Molecular Immunology and Inflammation
Department of Biological Sciences, Graduate School of Science
The University of Tokyo

2-11-16 Yayoi, Bunkyo-ku,Tokyo 113-0032, Japan

Copyright © Sorimachi Laboratory
トップへ戻るボタン